オリーブオイルの基礎知識

3.オリーブオイルの作られ方

【オリーブの収穫】

オリーブの実の収穫は伝統的な手摘みから、機械による収穫まで様々な方法があります。 最もオリーブの実に優しく、品質を損なわない方法はやはり手摘みです。人の手がとどく範囲の高さに剪定された樹の下に大きな網を広げ、枝一本ずつから人の手でオリーブの実を収穫します。

手摘みにも地方により特色があり、竹の棒で枝を叩く方法や、専用の摘み取りクシを使う方法、手で枝をしごく方法など様々です。 また主に南部などの完熟したオリーブの実を用いる地域では、熟したオリーブが自然に落下するのを待ち、それを拾い集めることもあります。
しかし、人の手を使っての収穫は効率が悪く、人件費もかかるため、大農園ほど機械化も進んでいます。 こうした農場では、オリーブの木を植える間隔を広くして、その間を機械が動けるスペースを作り、木も一定の間隔で植えます。 自走する機械で、オリーブの木を揺すり実を落として収穫します。 機械で木を揺することで、木を傷めることも懸念されますので、良心的な小規模農場では、今でも昔ながらの手摘みが行われています。

【オリーブオイルの搾油】

オリーブオイルの品質を決めるのは、なんといっても栽培されたオリーブそのものですが、その風味を大きく左右するのが搾油という技術です。近年では新たな技術の導入が進み、オリーブオイルはさらに純粋で酸度の低いものが生産されています。

オリーブオイルは他の植物油と違い、本来、溶剤抽出などの化学的な加工や加熱処理をしなくても、植物組織から油分を分離させることが可能な非常にナチュラルな食品です。それ故にオリーブオイルは、オリーブの実を絞った果汁といっても過言ではありません。

搾油といっても、オリーブオイルの作り方は、本来非常にシンプルなものです。
オリーブは菜種やひまわり油のように種子から油を抽出するのではなく、その果肉から油分を取り出します。その原理は、オリーブの実をギュッと絞って、出てきた水分を水と油に分離するだけのことです。
単純に砕いて絞った実から、そのままオイルが取れる性質であるなら、化学的な処理は好ましくありませんし、行うべきではありません。
エクストラバージンの名にふさわしい品質を誇るには、常に純粋さを最優先するべきですが、しばしば生産効率とコスト削減が優先されることもあるのが、現代社会の大きな問題のひとつです。

現在のオリーブオイルの搾油方法は、伝統的な搾油方法と、現代的な搾油方法のふたつに大きく分類することができます。
技術的な仕組みは、専門家のジャンルですが、消費者の目としては、そのオイルがどのような鮮度で、加熱をどのようにしているか、この点を注意するといいかもしれません。
鮮度とは、収穫からオイルの抽出までの時間が短いことが重要です。オリーブの実は収穫時点から酸化と発酵が始まりますので、最低でも24時間、できるだけ8時間以内の搾油が理想とされています。一度オイルになってしまうと安定し、酸化は進みにくくなりますが、それまでの間、できるだけ空気に触れずに素早くオイルにすることがよいとされています。
大量生産を目的とする搾油所では、生産性の向上のために加熱やお湯を使ってオイルの分離を促すことがありますが、これはオリーブのデリケートな風味を壊すものであり、良質な農家や搾油所では28度以下のコールドプレスにこだわっています。

<伝統的な搾油方法>

圧搾法といわれるこの方式は、もっとも伝統的で基本的な方法です。
収穫されたオリーブオイルを石臼でひいてペースト状にし、それをフェルトのマットに挟み、圧力をかけることで固形の植物組織と液体状の油分と水分が分離されます。分離槽に入れられた液体は、油と水の比重が違うので自然と二層に分離し、その上澄みがオリーブオイルとなります。これをさらにフィルターで濾過し、果肉や不純部と分離させ、完全な油分として製品化します。
オリーブの実の収穫から始まり製品を造るところまで、ほとんどが人間の手作業を経るため、熟練と経験を要する方法でもあります。鮮度を保つためには、集中して作業を行わなければならず、非常に重労働ともなります。
この方法の大きな問題点は、労働コストが高い割に生産効率が低く、そしてなんといっても搾油中のオリーブが大気に触れる時間長く、酸度を低く保つことが難しい点にあります。
このため、現代は多くの搾油所ではこの方法は取らず、最新の技術を取り入れた現代的な搾油方法に切り替わっています。

もともと伝統的な方法故には地域や文化、そして搾油所ごとに様々な技法があります。
数百年前と同じ道具や方法を用いるところもあれば、石臼やフェルトに代わる、より衛生的で、空気に触れにくい技術を導入しながらも、伝統的な方法を継承している搾油所もあり、様々な方法が混在しており、一口でくくることが難しいのですが、良心的でプライドのある生産者の手になるものは、それを個性と呼ぶべきでしょう。

<現代的な搾油方法>

さらに良質で純粋なオリーブオイルを作りたい。そんな生産者の夢は、今でも様々な技術革新を生んでいます。
現代ではオリーブを砕きペースト状にする段階から搾油までを、機械化した技術が中心となっています。 この技術により、これまで重労働であったオリーブの搾油はずっとシンプルで衛生的なものになりました。

「連続法」といわれる搾油では、一連の技術をすべて統合した機械に収穫したオリーブを投入すると、オリーブオイルが出てくる様は、伝統的な搾油方法に比べると、なんとなく味気ないものにも思えますが、より純粋で良質なオリーブオイルを搾油するにはこの方法が持つアドバンテージは計り知れないものがあります。 この分野の技術革新は今も続いており、最新の設備では、すべての工程で一切空気に触れることなく、完璧な温度管理の下オリーブオイルを作ることも出来ます。

本来であれば伝統にこだわる多くのイタリア人が、自ら進んでこの技術の導入を進めているのは、生産効率だけではなく、出来上がったオリーブオイルの品質が明らかに改善されていることのあらわれともいえるでしょう。

ただこの技術も、生産効率だけを考える搾油所と、あくまで品質にこだわる搾油所では、出来上がったオリーブオイルの内容は大きく変わります。
世界中にオリーブオイルを大量に輸出するような大企業では、その方法も明らかにされていない場合が多く、不安もあります。生産性とコストのために品質を保証できる温度管理を行っているのか、分離を促進させるために余計な水分やお湯を加えていないかなど、機械化によって目に見えなくなったことによる疑問が解決されているかどうか気になるところはいくつもあります。

しかしプライドを持った生産者と搾油所では、最良の設備をあくまで品質向上のために用いるという哲学のもと、オリーブオイルの純粋さを追求しています。
単一農場の良質なオリーブオイルを生産しているプライドのある農家や搾油所では、現代の技術を利用しながら、いまもなお自らの夢を追求しているといえるでしょう。

自前の搾油所を持たないヴェローニ農場は、隣の丘でオリーブを栽培している高級オリーブオイルで名高いラウデミオの中心的生産者であるフレスコバルディの搾油所でオリーブオイルを作っています。

<その他の方法>

精製
エクストラバージンオリーブオイルは酸度0.8以下で完璧な風味を保っている必要がありますが、その基準に満たない、つまり食用には味の悪いオリーブオイルを精製することがあります。精製オリーブオイルは、脱酸を行うことで酸度は非常に低くなります。また脱臭、脱色といった過程を経ることで無味無臭となり、単なるオリーブから抽出された油となります。
食用にはバージンオリーブオイルをブレンドして販売されます。
また、化粧品や石鹸などの美容用品や、薬品などの原料に用いられることもあります。

ポマース
エクストラバージンオリーブオイルを絞った搾りかす(英:ポマース、伊:サンサ)にはまだ油分が残されています。ここから、さらに科学的な溶剤を用いてオイルを抽出することが出来ます。
しかし、これは精製オリーブオイルと呼ばれ、もはやオリーブの果汁とは言いがたく、エクストラバージンオリーブオイルとは大きく異なります。

【フィルタリング】

絞り出されたオリーブオイルは微量の果肉質などを含むので、これを濾過して最終的なオリーブオイルとなります。
これにより、オリーブオイルはオリーブの果実から絞り出された純粋な油分として完成されます。 イタリアを始め、各地でノベッロと呼ばれるその年の出来立てを、あえて未濾過のオリーブオイルを味わう場合があります。
未濾過のオリーブオイルは、果肉などの不純物が腐敗するので、フィルタリングされた通常のオリーブオイルより賞味期限は短くなります。

【有機】

有機のオリーブオイルを名乗るためには、オリーブの栽培条件だけでなく、EUなど管轄の機関が定めた基準を満たした搾油所でオリーブオイルを作らなくてはなりません。
有機の認定は非常に厳格なものですので、現代的な設備は衛生面や品質管理において有利ですが、伝統的な搾油所で有機の認定を得ることは大変難しくなっています。

1.人生を豊かにするオリーブオイルに出会うために
2.オリーブオイルの分類と種類
3.オリーブオイルの作られ方
4.オリーブオイルの成分と健康への効果
5.オリーブオイルをめぐる問題