オリーブオイルの基礎知識

5.オリーブオイルをめぐる問題

オリーブオイルとは、エクストラバージン(最高に純粋という意味)と呼ばれるものこそ本来のあるべき姿です。 酸度が低く、充分なオリーブの風味を持ち、健康的で美味しい農産物であるべきですが、現代のオリーブオイルをめぐる環境には、いくつもの問題点があります。

【ブレンドオイルとシングルエステートのオイル】

オリーブオイルは農産物です。
それはつまりオリーブ畑から採れたオリーブの実を絞ってできた果汁であり、とてもシンプルな物理的な工程のみで、このオイルは作ることが可能です。
決して工場で化学薬品に囲まれて作られるものであってはいけないものでもあります。

しかしオリーブオイルが世界的な需要を誇る大きな産業になるにつれ、ひとつの農場、ひとつの畑からオリーブオイルを作るだけでは生産量がまかなえないという問題が発生します。
このため現在多くの大量に生産・出荷されるオリーブオイルのほとんどは、いくつかの生産地で作られたオリーブオイルをブレンドして世界各地へと出荷されることになっています。
ブレンドは優秀なブレンダーが良心的に行えば、おいしいオリーブオイルとなる可能性もありますのですべてを否定することは出来ませんが、現実的にはコストを抑え、大量に生産することが目的ですので、必ずしも消費者の利益を優先しているとはいえない場合も懸念されます。
また、グローバリゼーションの発展にともない、ブレンドされるオイルはその生産地域をどんどん広げています。
オリーブオイルは、最終的に瓶詰めして出荷する国が生産国を名乗ることができるので、例えば他の国で生産されたオリーブオイルをブレンドしても、最終的な出荷がイタリアであれば、イタリア製となります。
現在、オリーブの最大輸出国はスペインで、イタリアは2番めになります。特にイタリアはオリーブオイル生産の伝統と格式というブランドヴァリューを持っていますので、他の大きなオリーブ生産国のオイルがイタリアに出荷されて、そこでブレンドオイルとなって瓶詰めされることは珍しくありません。
農産物において、トレーサビリティが重要視されているなかで、これらの出来事は、オリーブオイルの生産をブラックボックスとしてしまい、消費者は「いつ、どこで、誰が」作ったオリーブかもわからず口にすることになります。

また生産効率だけを考えてブレンドを行えば、味や品質はめちゃくちゃになる可能性もあります。しかし、大量に世界に出荷されるオリーブオイルは、毎年ほとんど同じ味で変わることがありません。農産物であれば、その年の出来具合によって味が変わるのが当然なのですが、実際には同じラベルのオリーブオイルであれば、その変化を味わうことはほとんどないといっていいいでしょう。そして何故、毎年同じ味なのか、その理由を確かめる術もないのが実情です。
これは多くの消費者が、いつも同じ味を求めてしまうことも原因なのかもしれませんが、まだオリーブオイルの本来の味と楽しみ方を知らないというのも事実なのかもしれません。

国をまたいでオイルが移動することも大きな問題でもあります。
多くの場合、安いオリーブオイルの供給国はチュニジアなどの北アフリカ沿岸の国や、トルコなどといわれています。これらの国からイタリアなどへオイルを運ぶ手段の多くは船ですが、傷みやすいオリーブオイルが最高の品質を保っったまま、地中海を渡っているか疑問が残ります。大量の輸送にはタンカーが使われる場合もあり、これはまるで石油のようです。
どのような方法であろうと、プライドのある農家が純粋さと品質のために、搾油からボトルに詰めるまで、空気と紫外線を避けるように努力しているのに比べて、大量のオリーブオイルが無防備に長い時間をかけて輸送されていることは、決して好ましい状況とはいえないでしょう。

一方、シングルエステート(単一農場)のオリーブオイルは、全く異なります。
これを作るオリーブ農家はプライドを持って、自らのオリーブ畑で丁寧に栽培したオリーブを、出来る限り純粋なオリーブオイルとして出荷しています。
その風味は、その土地や農場の文化と歴史そのものです。
同じ地域であっても、オリーブの品種、栽培方法、収穫や搾油の仕方、さらには土壌や日当たり、風通しなど様々な条件によってその風味は変わります。イタリアのように南北に長い国では、南と北で大きく味も異なります。トスカーナは、ぴりっとスパイシーで、香りも若々しいものを特徴とし、南部ではよりまろやかでデリケートな味になります。
そして、毎年変わる気候によっても、その風味も変化します。
こうした事情はワインの愛好家にとってはよく知られていると思いますが、オリーブオイルもそれに当てはまるものといえるでしょう。

1リットルで1,000円以下で販売されているオリーブオイルと、250mlで2,000円以上するオリーブオイルがあるのは、こうした事情があるからなのです。

【黒い噂】

オリーブオイル業界では、かねてよりエクストラバージンオリーブオイルの偽装が蔓延しているという噂は後をたちません。
最高品質の証であるべきエクストラバージンという称号は、たとえそれがラベルに印字されていたとしても、それだけでは本当の価値を見出すことができるものとはいえないものなのかもしれません。

偽装のひとつが、エクストラバージンとはいえない低品質のオイルがブレンドされているとう噂です。
大量生産、低コストという現代の産業のあり方は、純粋で効率の悪い従来のオリーブオイル産業にも暗い影を落としています。混ぜられているといわれるオイルは、エクストラの品質基準に満たないバージンオイルから、化学的に精製されたオリーブオイル、果てはオリーブオイルですらない他の植物油だったりします。 なかでも精製オリーブオイルは、技術の進歩によって、エクストラバージンとは呼べない品質のオリーブオイル、それは酸度が高く、味も劣悪で、腐敗臭のあるものであっても、精製によって無味無臭のオイルとすることが可能となり、この生産量は増えています。本来であれば、精製オリーブオイルをブレンドしたものはエクストラバージンの名称を得ることは出来ませんが、無味無臭のオイルが混入していても、それをあとから判別することは非常に困難です。

また広い地域や国で生産されたオリーブオイルがブレンドされて製品となる場合、どの段階でそのような混ぜものが入れられたかを確かめるのも非常に困難です。
大量に生産されるブレンドオイルは、その産地もひとつやふたつではなく、想像以上の数になることもあり得ます。小さなオリーブ農場からオイルを買い集め、それを中間業者がある程度にまとめて、さらに大きな元締めがトン単位で他国へ輸出し、そういった様々な国や地域で作られたオイルが、巨大産業と化したメーカーによってブレンドされ、世界中に出荷されるという話は、現代社会では起こりえないこととはいえません。

こうしたことは、単一農場で作られるオリーブオイルではまずありえないことですが、大量に安価で販売されているオイルではその疑いを払拭することができないのが現実です。

【日本のオリーブオイル事情】

日本でももはやオリーブオイルは珍しい食品ではなく、多くの家庭で食されているポピュラーなものとなっています。
しかし、残念ながら本当のオリーブオイルの姿は、まだまだよく知られていないというのも事実です。

その理由のひとつに、エクストラバージンなどの等級はIOOC(国際オリーブオイル協会)によって定められたものですが、日本のJASではオリーブオイルにそのような等級や規定がないことがあげられます。
JASが定めているものは、オリーブオイルとはオリーブの実から作られたオイルであること、そして酸度が2%以下であるものをオリーブオイルとして販売できる、という点だけです。
この基準では、酸度が2mg(1%)以下のオリーブから作られたオイルであれば、たとえそれがIOOCの基準に満たなくともエクストラバージンオリーブオイルと称して販売することが可能です。なぜなら日本にはオリーブオイルの等級を区別する基準がないのですから、エクストラバージンと名乗ることに何の問題もありませんし、罰則の規定もありません。
先述の黒い噂が事実であっても、日本のような国においては、この基準を満たせば何ら法的に問題になりません。
乱暴ないい方をすれば、酸度が1%以下でありさえすれば、ラベルに貼られる謳い文句はエクストラでもなんでもかまわないということです。

このように、残念ながら日本ではエクストラバージンと称して販売されているオリーブオイルが、そのラベルだけでオリーブ本来の純粋さと風味を証明することには全くならないというは、重く受け止める必要があります。
美味しく健康的で純粋なオリーブオイルを求めるには、そのラベルや裏書された内容表示だけでは不十分であるということを知っておくべきなのです。
そして華麗な謳い文句や美しくデザインされたラベル以上に、「いつ、どこで、誰が」作ったのか、その生産方法、品質、ひいてはその文化や歴史なども積極的に開示しているブランド、輸入業者や販売者を見つけることが、賢い消費者となる道であり、真のオリーブオイルを味わうためにはとても重要なのです。

 
1.人生を豊かにするオリーブオイルに出会うために
2.オリーブオイルの分類と種類
3.オリーブオイルの作られ方
4.オリーブオイルの成分と健康への効果
5.オリーブオイルをめぐる問題